武力行使の禁止

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武力行使の禁止

 

国際社会を語る上で、避けて通れないのが「戦争」。

 

残念ながら、2023年現在も続くウクライナ侵略然り、国際社会に戦争はつきものです。

 

だからといってドンパチが許容されてる訳ではなく、

国際法はきちんと戦争を規制しようと努力してきました。

 

今回は国際法における武力紛争の規制をみていきましょう。

 

 

武力紛争規制の歴史

 

武力紛争規制の動きとして、まず始まったのが、「こういう戦争ならやってもいいですよ」と、戦争を正当化する根拠づけです。

 

17世紀、蘭国のグロチウスは、著書「戦争と平和の法」にて、

防衛、回復、処罰

が戦争の正当原因としました。

 

逆にいうと、これらの原因があれば戦争していいので、

戦争する権利を認める結果になります。

 

時は流れ、20世紀初頭辺りから、戦争する権利を手続き的に禁止する動きが始まりました。

 

例えば、債権回収に兵力の使用を制限した「ボーダー条約」、

紛争解決の為の調停委員会の報告があるまで開戦宣言や敵対行為をしないとする「ブライアン諸条約」を、米国が各国と締結しました。

 

第1次世界大戦後にできた国際連盟では、

国交断絶に至る虞のある紛争については、国際裁判手続又は理事会審査の結論の後、3ヶ月は戦争禁止とする「戦争モラトリアム制度」を設けました。

 

1928年には「不戦条約」が締結されました。

 

この不戦条約によって、初めて戦争が一般的•実体的に禁止されました。

 

然し、事実上の戦争、詰り開戦宣言を伴わない軍隊の移動が規制の対象外だったり、

違反者に対する制裁がなかったりと、

抜け穴の多い条約だった為、第2次世界大戦を防げませんでした。

 

第2次世界大戦後、国際連合は、国連憲章2条4項で「武力行使•武力による威嚇」を禁止しました。

 

事実上の戦争を防ぐ為、’戦争’ ではなく ‘武力’ という名詞を使ったんですね。

 

これは「武力行使禁止原則」といって、現在では国際慣習法とされています。

 

2022年の露国は、武力行使禁止原則に違反してる可能性が高いですね。

 

武力行使禁止原則には、国連憲章上の明確な例外があって、

1.自衛権に基づく武力行使

2.安保理の決定に基づく軍事的措置

であれば武力行使を容認しています。

 

2022年からのウクライナは、自衛権に基づく武力行使してるといえますね。

 

逆にいうと、自衛権、又は安保理の決定が、新しい正当原因といえますね。

 

これが国連憲章の武力行使についてですが、

自衛権以外にも許容される新しい武力行使の類型があるんじゃないか、という考えがあります。

 

人道的干渉

 

大規模な人権侵害をやめさせる為、他国が武力で介入します。

 

安保理の決定がない限りは違法行為とされます。

 

在外自国民救出活動

 

自国民の生命に重大な危険が迫り、他に有効な手段がない場合、最小限の実力を行使します。

 

民族解放戦争

 

植民地独立付与宣言等の総会決議によって人民自決権に基づく民族解放団体の武力行使が正当化されました。

 

第3国の武力支援が許されるかは争いがあります。

 

低強度紛争

 

準国家団体と国家の間のイデオロギー対立を含む紛争です。

 

主にテロ組織との戦いです。

 

米国は、テロとの戦いは一種の警察活動であり、武力行使禁止原則の例外になると主張しています。

 

 

軍縮

 

軍備水準を削減•廃止する措置です。

 

戦前は主に海軍、戦後は核兵器について、多くの条約や交渉がなされてきました。

 

核兵器に関する条約について、主なものを列挙します。

 

中距離核戦力(IMF)全廃条約

 

中距離核の全廃と、戦略核の弾頭数を1/3まで削減しました。

 

戦略兵器削減条約(START1)

 

核弾頭を6000発まで削減しました。

 

部分的核実験禁止条約

 

大気圏、宇宙、水中での核実験を禁止します。

 

地下は禁止されてません。

 

米、英、ソ連が入りましたが、仏、中国は未加盟です。

 

包括的核実験禁止条約(CTBT)

 

地下も含めて核実験を禁止します。

 

国連総会で採択されました。核保有国、事実上持ってるとされる国を含む44ヶ国の批准で発効します。

 

批准する気ない国も多々あるので、発効は難しいです。

 

核兵器不拡散条約(NPT)

 

核保有国と非核保有国にわけます。

 

非核保有国は、国際原子力機関(IAEA)による査察が義務づけられています。

 

核保有国は、非核保有国への核兵器の移譲や開発支援が禁止され、

核軍縮、完全軍縮への誠実交渉義務が課されます。

 

一方で、核保有国には査察義務がないので、核保有国と非核保有国の間で義務の重さに偏りがあります。

 

非核地帯

 

条約によって一部地域で核兵器を禁止します。

 

ラテン•アメリカ非核地帯条約(トラテロルコ条約)

南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)

東南アジア非核地帯条約(バンコク条約)

アフリカ非核地帯条約(ペリンダバ条約)

中央アジア非核地帯条約(セメイ条約)

の各条約が発効しています。

 

軍縮に関してこれだけ色んな条約がありますが、

軍縮に関する一般的義務は今も実定国際法には存在してるとはいえないそうです。

 

軍縮の方式は、

国連総会が音頭をとる「普遍的方式」

地域で軍縮する「地域的方式」

2国間でする「双務的方式」

があります。

 

まだまだ程遠いですが、軍縮の動きもそこそこあるんですね。

 

 

安全保障

 

名前の通りではありますが、

付加えるなら ‘戦争を起こさない体制’ とでもいいましょうか。

 

大きな方法としては、

同盟体制による勢力均衡方式と、

集団安全保障方式があります。

 

勢力均衡とは、同盟同士が睨合ったまま戦争ができない状態で、

集団安全保障とは、全ての国を仲間として、血迷った国を皆で制裁する仕組みです。

 

今の国連は集団安全保障体制ですが、

100%機能してるとはいい難いです。

 

特に、集団安全保障体制の根幹を担うのが安全保障理事会ですが、

冷戦中は米ソの拒否権の連発で、血迷った国をなかなか制裁できませんでした。

 

どうしても安保理が機能不全の時は、総会が「緊急特別総会」を開き、「平和のための結集決議」を採択していました。

 

実は、国連総会の決議には法的拘束力がありません!

 

なので、どれだけ決議しても、最悪、踏倒そうとしたら当事国のやりたい放題なんです。

 

冷戦が終結すると、一転して安保理が積極的に制裁する様になりました。

 

拒否権の殆どが米ソの対立からくるものでしたが、

冷戦の終結で拒否権を使う程の対立は和らぎましたから。

 

背景はともあれ、冷戦期よりはちゃんと仕事する様になったんですな!

 

 

PKO

 

国連憲章43条には「国連軍」についての規定があります。

 

規定はあるものの、43条に基づいて組織された国連軍は未だございません。

 

そうはいうものの、停戦の監視とか、地雷の除去とか、軍隊しかできない仕事が国連に持込まれるのもあります。

 

国連軍が作れないというので、代わりにできたのがPKOです。

 

当初のPKOは、停戦維持とか紛争再発の防止とかで、

制裁までは目的ではありません。

 

武器使用も最小限度。

 

PKOですが、紛争当事国の同意なしには派遣できません。

 

更に、当事国のどっちの味方もしませんし、

内政にも干渉しません。

 

指揮権は事務総長にあります。

 

仲直りに必要な最低限の力しか使いません。

 

PKOは、国連軍より簡単に組織できる分、便利なのか、任務がどんどん多様化•大型化しています。

 

国連で1番、金を使うのがPKOだとか。

 

PKOに武力行使を容認する事例もでてきています。

 

どんどん国連軍に近くなっていますね。

 

このまま国連軍に発展させていくのか、

それともあくまで従来のPKOを続けるのか、

いずれは選ばなければならない日がくるかもしれません。

 

 

自衛権

 

自国の法益を守る為、緊急不可避の際に実力で他国の攻撃を排除する権利です。

 

正当戦争の時代の「防衛」がその起源です。

 

19世紀には国際慣習法になっていました。

 

戦間期、国際連盟規約や不戦条約によって戦争そのものが違法になる中、自衛権は

1.過去でも未来でもなく、現在の危難に対しての「急迫性」

2.同程度の反撃に留める「比例性」

の要件の元、違法性阻却事由として認識される様になりました。

 

国際連合が発足すると、武力行使禁止原則の例外として、国連憲章51条に規定されました。

 

51条は、自衛権を発動する要件として、武力攻撃の発生を規定しています。

 

又、自衛権を使ったら安保理へ報告しなければならず、

自衛権の行使は安保理が必要な措置をとるまでの間だけです。

 

実際はともかく、法的には本当に最低限しか使えないんですね。

 

 

集団的自衛権

 

直接攻撃を受けてない国も反撃できる自衛権です。

 

攻撃を受けた国と同盟関係があったりすると、

「よくも俺のダチに!」って、一緒に反撃します。

 

集団的自衛権も国際慣習法上の権利です。

 

但し、行使には要件があって、

1.被害国が「攻撃された」と宣言してる

2.明示の援助要請

があると行使できます。

 

 

武力紛争法

 

武力紛争時に適用される国際法です。

 

武力紛争は、大きく「国際的武力紛争」と「非国際的武力紛争」に分かれます。

 

国際的武力紛争は国同士の武力紛争、

非国際的武力紛争は1国内の反乱や武装組織との紛争です。

 

暴動の様な単発的な暴力行為は非国際的武力紛争には含めません。

 

国際的武力紛争、非国際的武力紛争それぞれに色々な条約が作られていきました。

 

武力紛争法は、

「ヘーグルール」という、敵対行為実施に関する法規と、

「ジュネーブルール」という、戦争犠牲者保護に関する法規に分かれます。

 

 

ヘーグルール

 

武力紛争が事実上開始されれば武力紛争法が適用されます。

 

開戦宣言や最後通牒等は、武力紛争法の適用には必要ありません。

 

不必要な苦痛をもたらす兵器の使用も禁止されます。

 

400g以下の焼夷弾、ダムダム弾等です。

 

これらの兵器は、大火傷を負わせながら生きながらえさせたり、体を腐らせたりするので、

普通に殺すより返って残逆だとされました。

 

軍事目標主義

 

戦闘員や軍事目標と、文民、民間の物に区別し、

文民や民間の物は攻撃してはならないとする原則です。

 

1907年のヘーグ規則では、都市を「防守都市」と「無防守都市」とに分け、

防守都市は、都市全体が軍事的性格を帯びるから、無差別攻撃が許されるとされました。

 

但し宗教や学術用や歴史的記念物や病院は極力、攻撃は避けねばなりません。

 

その後、1977年の第1議定書で、防守都市であっても無差別攻撃を禁止し、軍事目標を厳しく制限しました。

 

背信行為の禁止

 

武力紛争法で保護される者、例えば民間人を装っての攻撃は禁止されます。

 

これをやると、捕虜資格を失ったりします。

 

適用除外

 

ヘーグルールは、非国際的武力紛争には適用されません。

 

基本は国内刑法の内乱罪だからです。

 

国際的武力紛争の戦闘員は、後で紹介するジュネーブルールによって捕虜待遇を得ますが、

犯罪者として刑事訴追されるか、捕虜待遇を得るかで、待遇が180°変わってきます。

 

 

ジュネーブルール

 

戦闘員、非戦闘員を区別し、それぞれに人道上の保護を保障します。

 

戦闘員は交戦者資格があり、攻撃対象になりますが、

非戦闘員は交戦者資格がなく、攻撃対象になりません。

 

戦闘員は、敵の権力内に陥ると捕虜になります。

 

スパイや傭兵には捕虜資格はありません。

 

戦闘員か非戦闘員かを曖昧にしてしまうからですね。

 

文民は、攻撃対象にしてはなりません。

 

文民が紛争当事国の権利内に陥ると被保護者になります。

 

非戦闘員は、

捕虜+文民+被保護者

です。

 

捕虜資格ですが、元々の要件は

1.指揮の存在

2.識別可能な標章

3.武器の公然携行

4.戦争法規•慣例の遵守

があります。

 

第1議定書では、ゲリラや民族解放団体に有利に捕虜資格を緩和しました。

 

具体的には

1.組織化され武装化された全ての集団

2.識別や武器の公然携行は軍事展開中に限ってすればよい

 

文民は、武力紛争になると、法的には大きな保護を受けます。

 

軍事行動からの危険に巻込まれない、無差別攻撃の禁止、暴力や威嚇の禁止といった「消極的保護」、

身体•名誉•家族を有する権利、宗教上の習慣を尊重される権利、強制の移送や労働を禁止する「積極的保護」。

 

2022年からの露国は、ウクライナに対しての消極的保護にも積極的保護にも違反してる可能性が高いですね。

 

ジュネーブルールを守らせる為、履行確保の制度も規定されています。

 

1つ目は、軍隊への教育義務。

 

2つ目は、「戦時復仇」。

 

武力紛争法違反に対し、均衡性と必要性を満たす事を条件に、武力紛争法違反の行為で対抗する事です。

 

目には目を、違反には違反を。ですね。

 

乱用やエスカレーションの危険から、被保護者に対しての復仇は禁止されています。

 

3つ目に、赤十字国際委員会(ICRC)の監視。

 

4つ目に、国際事実調査委員会の審査•調停

 

これは実際の活動には至ってないそうです。

 

5つ目に、裁判での重大違反行為の処罰

 

以上5つが履行確保の手段です。

 

 

中立法

 

中立国は、戦争でどっちの味方もしない国ですが、

戦争が起こった時に中立国に適用されるのが中立法です。

 

中立を選ぶかは、各国の任意です。

 

永世中立といって、平時から中立義務を負う国もあります。

 

スイスとか、オーストリアとか。

 

中立国には3つの義務があります。

 

避止義務

 

交戦国に援助するな!義務です。

 

民間人が勝手に支援する分までは規制しません。

 

あくまても国家に対して課せられる義務です。

 

防止義務

 

交戦国に利用されるのを防止する義務です。

(領土を通過される、とか)

 

避止義務と防止義務をあわせて「公平義務」といいます。

 

黙認義務

 

交戦国に認められる戦時国際法の影響で生じる不利益を受任する義務です。

 

交戦国を支援する物資を積んだ船が拿捕されても文句を言えない、とか。

 

 

核兵器使用の合法性

 

核兵器は、1度使ってしまったら、地球規模での損害になりかねない究極の兵器です。

 

そんな兵器を使うのが、果たして合法といえるのでしょうか?

 

国連総会が国際司法裁判所にそれを諮問しました。

 

国連総会の様な国際機関は、具体的な事件が起こってなくても、国際司法裁判所にお伺いをたてれます。

 

国際司法裁判所の回答が、核兵器使用の合法性勧告的意見です。

 

中身ですが、まず、

核兵器の使用自体を禁止した条約や国際慣習法はないとしました。

 

その上で、

核兵器の威嚇•使用は、国際人道法に一般的には反する。

としました。

 

一般国際法じゃなく、国際人道法に絞ってはいますが、

破壊力といい、その後の放射線被害といい、人道的ではないと認められただけでも前進でしょう。

 

次がアレなんですが、

自衛の極端な状況での核兵器使用は、合法か違法か結論できない!

ですって!

 

一般人からみれば、裁判所が匙を投げた結論ですね。

 

自衛権それ自体は国際法で認められていますが、

そこに核兵器を混ぜると、途端に裁判官を困らせたんですな。

 

ここまでが結論ですが、

最後に「全ての核保有国は核軍縮交渉を誠実に達成し完了する義務を負う」とつけ加えました。

 

単に「話合え」だけじゃなくって、

完了まで義務づけました。

 

これは同時に、国連総会への投返しでもあります。

 

字面は美しい文章ですが、

荒っぽく解すると「お前らできちんと話合え!」といってるんですから!

 

この勧告的意見は、核兵器については国際法が未完成というか、欠缺があるのを露呈させました。

 

 

終りに

 

如何でしたか?

 

今回は武力紛争の規制について書きました。

 

前回は細かく書きすぎてややこしくなったかなと反省し、

今回は大分へつった積りですが、それでもあっちいったりこっちいったりしたかもしれません…

 

武力紛争の規制も、書きだしたら相当細かく書けるので、

極力書きつつ、細かく書きすぎて何を書いてるか分らなくなるのを防ぐのが相変わらずとても難しいのです。

 

何卒ご理解下さい!

 

YouTubeでは動画を公開しています。

 

要望、質問、その他コメントは、以下YouTube動画から願います!!!

 

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