憲法の私人間効力

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憲法の私人間効力

 

憲法は人権を保障しています。

 

それは今更いうまでもないのですが、

では憲法は、誰に対して「人権を保障せよ」といっているのでしょうか?

 

基本は国に対してです。

 

憲法は、国民が国家権力に対して突きつけた命令書です。

 

なので、国に対して「人権を保障しろ」というのは至極当然なんですね。

 

ですが、人権の敵は国だけではありません。

 

民間同士だって、人権を侵害し合ったりはします。

 

ではその場合、憲法はどう出るのでしょうか?

 

今回はそんな、憲法の私人間効力について見ていきます。

 

 

私人間効力

 

「私人」というのは民間人と思って頂ければいいです。

 

先程も書いた通り、憲法は国民が国家に突きつけた命令書です。

 

故に憲法が国民に適用されるのは、本来おかしいんですね。

 

なので「無効力説」、

詰り憲法は私人には一切適用されない、という考え方もあります。

 

然しそれでは、現代の人権保障には十分ではないです。

 

なぜなら企業による労働者いじめ、

労働組合による組合いじめ等があるからです。

 

「私人」といっても、全てが全て、保護されるべき弱い存在かというと、そうでもなく、

大企業や労働組合の様に、強力な力をもった私人もいます。

 

強い私人が弱い私人の人権を侵害するのに、憲法は何もしません、となると、

実際問題、人権が守られません。

 

そこで、私人であっても憲法を直接適用しようとする「直接適用説」がでてきます。

 

但し、直接適用説も問題があります。

 

私的自治を害するのです。

 

私的自治とは、ざっくりいえば自由です。

契約自由とか。

 

あれも憲法がでてくる、これも憲法がでてくる、となると、

民間の自由が著しく制限されます。

 

憲法は国家を縛る為のものであり、民間を縛る為のものではないのです。

 

なので直接適用にも無理があります。

 

無効力もダメ、

直接適用もダメ。

 

ではどうするか?

 

通説は間接適用です。

 

これは「私法の一般条項を通じて間接的に適用する」というもの。

 

これだけだと何いってるか分りませんね。

 

例えば民法90条には「公の秩序、又は善良な風俗に反する法律行為は無効」と書いてあります。

 

これだけだと、

何が公の秩序に反するのか?

何が善良な風俗に反するのか?

よく分らないですよね。

 

この様に、抽象度の高い条文を「一般条項」といいます。

 

この一般条項に於て、

何が公の秩序に反するのか?

何が善良な風俗に反するのか?

を判断する際に、憲法を参照します。

 

「人権を守ってないから公の秩序に違反する」

とかね!

 

これが間接適用です。

 

私人間ですから、あくまで適用されてるのは民法等ですが、

裏では憲法原理がしっかり生きているのです。

 

 

日産自動車女子若年定年制事件

 

日産自動車は昔、女性は男性より5年早く定年退職になる、という就業規則がありました。

 

憲法で考えれば、性別での差別に当るので、14条に抵触する事になります。

 

但し、日産自動車は国家ではありませんので、憲法を直接適用はできません。

 

そこで、直接的には民法90条が適用されます。

 

即ち、「性別で差別するのは公序良俗に違反する」と。

 

こういう風にして、優秀な女性が救われました。

 

 

三菱樹脂事件

 

大学在学中に学生運動してた人が、それを隠して就職活動しました。

 

そして無事、三菱樹脂から内定を貰いました。

 

その後、学生運動してたのがバレて、本採用が拒否されました。

 

そこで裁判になりました。

 

結果は三菱樹脂の勝ち。

 

なぜなら、どういう思想の人を雇うかは会社の自由だから。

 

個人個人に思想の自由がある様に、会社にも思想の自由があります。

 

契約自由っていうのは、そういう酷い側面もあるんですね。

 

日産自動車では個人の勝ち

三菱樹脂では会社の勝ち

 

この差は何なのか?

 

それは

既に契約関係にあるか、

これから契約関係に入ろうとするか

 

日産自動車は、既に契約関係にあるので、民法の公序良俗を及ぼせますが、

三菱樹脂は、これから契約関係に入ろうとしているので、せいぜい不法行為責任を追及し、損害賠償責任を問うのが限界です。

 

 

国家同視説

 

日産と三菱の判例で比較した様に、

これから契約関係に入ろうとする人には、間接適用説は無力です。

 

確かに企業側にも自由があるとはいえ、

間接適用説の限界は、個人に大きな不利益をもたらす場合があります。

 

例として、銭湯の外国人お断り

 

どんな人をお客さんにするかは銭湯の自由ですが、

そうすると家に風呂がない外国人が困ってしまいます。

 

そこで、一定の場合、民間であったとしても国家と同視しよう、という考え方があります。

 

それが「国家同視説」です。

 

どんな場合、国家と同視できるのかというと、

例えば銭湯が町に1件しかなく、しかも町から補助金を貰ってる、とか、

或は役所に独占的に入ってる食堂とか、

実際問題、公権力の一部になってると、国家同視説の対象になります。

 

国家同視説では、民間であったとしても憲法を直接適用します。

 

そうやって、一定の場合、立場の強み私人から、立場の弱い私人を直接憲法が守る事ができます。

 

一応こういう説を紹介しましたが、

日本の最高裁では採用されていません。

 

あくまで1学説にすぎないので、

その点、ご留意下さい。

 

 

昭和女子大事件

 

昭和女子大学は、「良妻賢母」の育成を目的として建学された大学だそうです。

 

学風としても保守的で、

政治活動やっちゃダメ、とかいう決りもあったそうです。

 

そういう学則に反して政治活動やっちゃった学生がいて、退学処分になりました。

 

そこで学生が怒って訴えました。

 

判決は大学の勝ち

 

何となく学生が可哀想に思いますよね!?

 

でも学生の負けです。

 

昭和女子大学は、私立大学です。

 

故に、大学の教育の自由があります。

 

良妻賢母をそだてたい、とか、

政治活動するな、とか、

大学の自由です。

 

それが気に入らなかったら行くな!

という話です。

 

やられた方の味方をしたい気持ちも分りますが、

やった側にもやる自由があるのをお忘れなく。

 

 

百里基地訴訟

 

個人所有の土地を、自衛隊基地にしようと、国が用地買収交渉していました。

 

そこで、自衛隊嫌いの人が、先に用地を買いました。

 

所が、費用を捻出できなかったんですね。

 

そこで、土地売買契約が解除され、国が土地を買いました。

 

先に国に土地を買われてしまったので、自衛隊嫌いの人は、国の土地売買契約の無効を主張しました。

 

理由は

1.憲法9条違反

2.民法90条違反

 

裁判所は、

1.憲法9条は使わない

2.民法90条違反でない

 

ここで大切なのは、

「憲法を使わない」

点!

 

一方当事者が国です。

 

なので一見、憲法が使われてしかるべき訴訟の筈です。

 

ですが憲法は使いませんでした。

 

理由は、国といえど、ここでは公権力の行使者として振舞ってはないから!

 

あくまで土地売買という、私法上の行為で振舞ってるので、立場としては民間人と同じなのです。

 

だから憲法は適用されません。

 

後は民事上の争いになるんですが、お金を用意した方が勝つという、民間では当り前の事した国が勝ったという、考えたら当然の理由で国が勝ちました。

 

 

例外的に直接適用される

 

憲法は国民が国家権力を縛るので、民間に直接適用されるのは、基本的には想定されていません。

 

が、例外的に、民間に直接適用されるものがあります。

 

1.投票の秘密

2.奴隷的拘束

3.児童の酷使

4.労働基本権

の4つです。

 

投票の秘密は、勿論、国家権力が聞いてくる場合もありますが、

報道機関等の民間が聞いてくる場合もあります。

 

もしそれが侵されれば、民間だったとしても憲法が直接適用されます。

 

2~4は労働に関連します。

 

労働は民間企業が対象になっている場合が多いので、憲法を直接適用します。

 

これらが例外的に、憲法が民間に直接適用されます。

 

 

終りに

 

如何でしたか?

 

今回は憲法の民間への適用について書きました。

 

基本的には、民法90条の様な、私法の一般条項を通じて間接的に憲法が適用されます。

 

お互いが民間同士であって、訴えた側にも訴えられた側にも自由があります。

 

なので必ずしも ‘弱い者’ の味方をするとは限りません。

 

「何となく可哀想」という風な見方をしていると、判例とは同じ結論には辿着けないでしょう。

 

その辺り、より中立的な判断をして下さい!

 

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