外交官と領事官の違いに関する国際法
外交は国際社会の基本ともいっていい位に重要なものです。
外交がなかったら国際関係なんて、どうあるのか甚だ疑問です。
そんな外交ですが、そこにはどんな国際法があるのでしょうか?
今回は外交領事関係法について書きます。
外交使節
改めていわれると何のこっちゃって感じですが、
例えば大使なんかがそうです。
大使とか、事務職員とか、そういう人達を纏めて「外交使節団」といいます。
外交使節団については、国際慣習法として発展してきましたが、その内容が「外交関係条約」として文書化されています。
外交使節団の長、通常は大使ですが、の受入れには、接受国(=受入国)の同意が必要です。
この同意を「アグレマン」といいます。
外交使節の任務は以下3つです。
1.代表機能
2.報告機能
3.推進機能
「代表機能」とは、派遣国を代表し、交渉•条約締結します。
公務員としつはかなり大きな権限です。
「報告機能」とは、情報収集し、本国に報告する任務です。
「推進機能」とは、経済•文化交流を通して、友好関係を促進する任務です。
外交使節の任務終了ですが、
まず接受国から「ペルソナ•ノン•グラータ」を通告される場合があります。
ペルソナ•ノン•グラータとは、「好ましからざる人物」という意味です。
接受国は、ペルソナ•ノン•グラータについて、理由を示す必要はございません。
法的には好き勝手に通告していいんですね。
まあ、そんな事したら国際的な信用を失うでしょうが…
ペルソナ•ノン•グラータ、PNGともいいますが、
を通告されると、合理的期間内に退去しなきゃいけません。
もう1つは、派遣国が自ら使節団に対し「帰ってこい」と召還する場合。
かつては開戦宣言の前段階で行われる敵対行為でしたが、
今は国連の制裁で行われたりもします。
外交使節ですが、
2以上の国に兼務させる事も認められています。
法律用語ではありませんが、
外務省ではこの兼務を「兼轄」とよんでるそうです。
アフリカ等、日本人が余り住んでない所では多いそうです。
人件費の節約になる一方、相手国からすると「我が国は軽んじられてるな」と思われても仕方ありません。
アフリカだけで50ヶ国以上の国がありますが、
国連総会では1国1票なので、味方を増やす為にも「軽んじられてる」と思われない方がいいです。
中国はアフリカの全ての国に大使館があるので、この点で日本が外交的に負け易くなります。
外務省は「大使館を増やしたい」といってるみたいですが、
どうなるんでしょうね…
領事
領事も外交使節の1員と思われるかもしれませんが、
全くの別物です。
元々は外国での裁判関連の仕事をしてたとか…
日本でも幕末に「領事裁判権」がありましたが、
その国にいる自分達の国民を裁くのが、元々の領事の大きな仕事でした。
今は領事裁判権がないので、そんな仕事はしません。
今の仕事は以下3つです。
1.保護任務
2.促進任務
3.行政機関事務
「保護任務」とは、その国にいる自国民を保護する任務です。
特に逮捕された場合、弁護人をつけたり、容疑者と面会する任務があります。
「促進任務」とは、経済•文化での交流の発展です。
「行政機関事務」とは、旅券の発給とか書類どうこうとか、
外国にある市役所みたいな感じですね。
領事には代表資格がありません。
そこも外交使節との違いですね。
領事関係の開設は、接受国の認可状によって行われます。
外交関係の時の様な「アグレマン」は不要です。
ペルソナ•ノン•グラータは、領事にも通告されますが。
接受国の国民から名誉領事を任命する場合まであるそうです。
勿論、こういう人には国家機密は教えませんが、
外交使節と比べるとかなり柔軟ですね。
しかも領事関係は、国家承認や政府承認とは別に行われますし、
外交関係の終了が、直ちに領事関係の終了を意味するものではありません。
なので、国交断絶になったとしても、領事だけ残って残務処理してる、なんてのもあったりします。
特権免除
外交特権ともいいます。
外交使節団や領事の他、大統領といった元首や行政府の長、外務大臣が享受する権利です。
大統領、行政府の長、外務大臣は外交使節団並の特権免除を有しますが、
領事は1段落ちます。
特権免除は、外交官以外にも及びます。
使節団の中には事務職員とかもいますので、当然といえば当然です。
そして、特権免除は、その家族にも及びます。
特権免除ですが、位に応じて中身が変わってくるそうです。
外交官が1番上、その次が事務職員、みたいに。
これは家族も同様です。
そこで問題になったのが「奥様会」!
2000年代初頭に外務省改革があって、そこでやり玉にあげられたのですが、
旦那の特権免除に応じて、ママ友同士で大使夫人を頂点としたピラミッド構造ができてたそうです。
「余りに封建的で下らないので廃止にしましょう」っていうのが、わざわざ問題になったんです。
恐ろしいママ友ですね。
これが公務員試験の過去問に出たんです!
過去問を見てはいませんが、多分 ‘奥様会’ が直で出てはないと思いますよ!
「特権免除は大使、事務職員、…、の順に…」みたいに、それらしい出し方はしてる筈ですが…
国際法の講師は「こんなのも出たんですね…」とぼやいてましたが、
自分達の問題点を試験に出すのは、ある意味公正なんじゃないでしょうか?
そんな余談は置いといて、
特権免除の中身ですが、まず
外交官の身体の不可侵
接受国へ税金を払わなくていいし、
違法行為をしても逮捕もされません。
外国に税金を払わないのは観光客も同じですが、
違法行為をしても逮捕されないのは、かなり強い権限ですね。
違法行為をした外交使節には、ペルソナ•ノン•グラータを通告できるに留まります。
一方で、領事については逮捕もありえます。
次に
公館の不可侵
公館とは、大使館とか領事館とかですね。
国際慣習法上、接受国は公館を保護する為の一切の適当な措置をとる特別の義務を負います。
但し、領事館について、火事とかで迅速な保護が必要とか、長の同意がない限り、立入ってまでの保護は認められません。
2002年に中国、瀋陽の日本総領事館に北朝鮮の脱北者が駆込みました。
そこで中国の武装警察が領事館の中に立入って脱北者を連去りました。
本来これは違法行為ですが、
中国は「同意があった」と主張しました。
駆込み時の動画が撮影されていまして、
日本の領事が中国の警官の帽子を拾って何か話してるんですね。
中国としては、この時に同意があったと主張しました。
音声は録音されてないので、どんな会話してるのか分らず、結果として同意を与えたかの余地を与えてしまいました。
連去られた人は日本への亡命は実現せず、
交渉の末、韓国へ亡命しました。
大使館は首都に1つしか置けませんが、
領事館は幾つか置けます。
中国みたいに大きな国だと、幾つかの大都市に置かれています。
が、職員が足りなくて、駆込みの対応に当ったのは他省庁からの出向者だったそうです。
国際法も、外務省のプロパー職員よりは分ってなかった為、初動が遅れてしまった様です。
国際法云々は別にして、
本当は領事についても人員を充実化させなければならないのです。
まあ、今の日本にそれだけのお金はないのですが…
次に
裁判権免除
外交官は民事裁判も刑事裁判も受けません。
一方、領事は、民事裁判は受けます。
一応、接受国は裁判権免除の放棄を要請はできます。
要請を受けてくれたら裁判できますが、
受けてくれなければペルソナ•ノン•グラータの通告で追出すしかできません。
裁判絡みで多いのは交通事故ですが、
外交関係条約では、民事裁判権免除を放棄すべきで、請求の公正な解決が得られる様に最善の努力しなさい。と決められてはいます。
実際には保険金で示談が多い様です。
それと、国際法上の違法行為については、免除が認められない場合があります。
ペルーの元大統領のピノチェトが英国で逮捕されました。
理由は大統領時代の拷問。
ピノチェトは当然、特権免除を主張しますが、
拷問禁止条約違反を理由に、免除は認められませんでした。
これはかなり珍しいですが、
国際法上の重大犯罪には外交上の保護は与えられない可能性が高いです。
根拠
特権免除の根拠ですが、
3つの説があります。
1.治外法権説
2.代表説又は威厳説
3.機能(的必要)説
「治外法権説」は、公館は派遣国の領土の延長と考えます。
現在ではこの説は否定されています。
公館の敷地も接受国の領土ですし、
欧米列強が治外法権を端緒に植民地を拡大してきた歴史があるからです。
「代表説」又は「威厳説」は、外交使節は派遣国の威厳を体現するから特権免除がある、とします。
「機能説」又は「機能的必要説」は、外交使節の任務達成に必要だから特権免除がある、とします。
外国関係条約では、代表説と機能説の折衷説が採用されています。
無難なやり方ですね。
纏め
如何でしたか?
今回は外交領事関係法についつ書きました。
纏めると
①
外交使節団の任務は
1.代表機能
2.報告機能
3.推進機能
がある
②
外交関係は、接受国のアグレマンに始まり、
ペルソナ•ノン•グラータの通告や派遣国の召還で帰国する。
③
領事は外交使節団とは別物で、
1.保護任務
2.促進任務
3.行政機関事務
がある
④
特権免除とは、外交特権ともいい、
接受国から逮捕や裁判にかけられない権利である。
でしょうか?
他にも細々ありますが、
纏めの章で書いてたらキリがないので割愛します。
今回の記事は純粋な国際法の話より、実際上の問題やネタ話が多かったですね。
個人的には、法的な建前の話も大切ですが、
そういう実際上の話も平行して大切だと思います。
今回も、いつもながら端折って説明してる箇所があります。
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