国際紛争の平和的解決とは
国際社会、皆が手と手を取合って仲よくやれば理想です。
ですが、各国それぞれに利害や事情があり、時に揉めたり喧嘩したりもあるでしょう。
揉め事があるのは仕方ないとして、その度に戦争してたら国際社会は悲惨になります。
そこで、揉め事は平和的な解決を求められます。
今回は、紛争をどう平和的に解決するかを見ていきたいです。
国際紛争の平和的解決義務
今日の国際法には、武力行使禁止原則があります。
なので、揉める度に戦争に訴えてたら違法です。
武力以外で解決しなければなりません。
まあ、しばしば破られてますが…
武力行使以外の紛争解決手続きですが、
大きく分けると裁判手続と非裁判手続、裁判かそれ以外かに分れます。
更に各手続きの中で色々な種類がありますが、
どの手続きを使うかは当事国の自由です。
どれが標準とかないんですね。
どれ使うかで揉める気がするんですが、
国際法はそうなってます。
非裁判手続
非裁判手続として、国家同士で解決するか、国際機関に入ってもらうか、があります。
国家相互間手続
国同士で解決するやり方として、
交渉、周旋、仲介、審査、調停
があります。
交渉
話合いですね。
分り易いですね。
争点の特定と、今後の紛争解決方法を決定する機能があります。
交渉の結果、交渉以外の手段を使う事もあります。
自由度が高いですが、
力関係が如実にでるので、弱小国には不利です。
基本、自由な前提条件で交渉しますが、
裁判所が交渉の枠組みを示す事があります。
前提条件つきの交渉ですね。
これを「交渉の客観化」といいます。
交渉はお互いが対立するのが多いですが、
お互いが同じ方向性で話合いするのもあります。
同じ方向性での話合いを「協議」といいます。
周旋
第3国が場所や設備を提供します。
その上で当事国が交渉します。
第3国は場所や設備の提供だけで、交渉には介入しません。
仲介
交渉に第3国が介入します。
周旋よりも突込むんですね。
審査
非政治的で中立の国際審査委員会が客観的な立場から事実を確認し、当事国の和解を促進します。
本来は法的判断を含みません。
実績が少ないので余り詳しくは習いませんでした。
調停
中立の委員会が、必要な情報と事実関係を解明し、解決案まで提示します。
紛争解決方法として取入れられている条約もありますが、
第1次世界大戦以来、殆どないです。
国際組織の介入
国際組織の介入ですが、昔あった国際連盟の解決法を紹介します。
紛争を連盟理事会へ付託する義務がありました。
結論がでるまで6ヶ月掛ります。
結論が出てから、3ヶ月は戦争に訴えてはいけません。
逆にいうと、3ヶ月経てば戦争に訴えてよかったのです。
ややザルですね…
に対して、現在の国際連合では、もっと複雑です。
安全保障理事会
安全保障理事会、通称安保理は、紛争の主要な解決機関です。
当事国が安保理に紛争を持込んでくるのと、
安保理が積極的に紛争に介入するのがあります。
当事国が安保理へ紛争を付託するものとして、
義務的付託、任意的付託、提訴があります。
義務的付託
「国際の平和及び安全の維持を危うくする虞れがある」紛争は、まず当事国が自主的で平和的な解決をしなければならないのですが、
解決できないなら安保理に付託しなければなりません。
任意的付託
当事国が自主的に安保理に頼みます。
頼まれたら、安保理は ‘いかなる紛争’ についても勧告できます。
提訴
いかなる紛争や危険な事態に対し、国連加盟国と同意した非加盟国、及び国連総会と国連事務総長は安保理の注意を喚起できます。
実際に揉めてる国だけじゃなくって、国連総会や事務総長も注意を喚起できるんですね。
提訴っていっても、あくまで注意喚起できるだけなんですね。
一方で、
安保理が積極的に介入するものとして、
自発的調査(審査)機能、自発的勧告、仲介•調停機能、
があります。
自発的調査(審査)機能
いかなる紛争や危険な事態に対し、それが平和•安全を脅かすか調査できます。
自発的勧告
いかなる紛争や危険な事態に対し、解決法をしめしたり、適当な調整手段や方法を勧告できます。
仲介•調停機能
紛争が国際平和や安全を危うくする虞れがある時は、適当な解決条件を勧告しなければなりません。
国連総会
国連総会が紛争に介入するものあります。
加盟国の付託による検討
国際の平和•安全を脅かす紛争を検討します。
一般的討議•勧告権限
平和•安全の為、一切の討議•勧告できます。
但し安保理進行中は、総会はいかなる勧告もできません。
安保理優先なんですね。
平和的調整権限
一般的福祉や、友好関係を害する虞れがあるいかなる事態に対し、平和調整の為の措置を勧告できます。
事務総長
国連事務総長個人も紛争に介入できます。
事務総長は、国連の行政の長であると同時に、
政治的な役割もあります。
安保理の注意喚起機能
国際の平和•安全を脅かすと思しき全ての事態に対し、安保理へ注意を促す権限があります。
国連機関からの委託による執行機能
総会や安保理から事務総長に頼まれます。
国家間紛争の周旋•仲介機能
国際公務員として、中立の立場から舞台裏で働きます。
地域的取極•地域的機関
条約によって、その加盟国同士で紛争処理方法や、裁定機関を設ける事ができます。
その加盟国は、安保理に付託する前に、地域的取極での紛争解決に努力しますし、
安保理も地域的取極の利用を促進しています。
只、あくまで努力なので、安保理や国連総会に訴える前に、絶対に地域的取極を利用しなければならない訳ではありません。
又、地域的取極は国連の目的や原則と一致せねばならず、
強制行動するには安保理の許可が必要です。
裁判手続
国際社会での紛争処理の基本は「外交で!」なんですけど、
外交だけではにっちもさっちもいかないと、やはり裁判に頼らざるをえません。
裁判ですが、大きく「国際仲裁裁判」と「国際司法裁判」にわかれます。
国際仲裁裁判
紛争毎に当事国の合意で設置されます。
なので、判事の数とか、そういう構成は一定しません。
判決も、国際法を基本としつつ、「衡平及び善」に基づく判決もありますので、
ある意味、柔軟に判決を下します。
国際司法裁判
国際司法裁判所、又はICJともいいます。
国連の主要機関で、国連に入る際に国際司法裁判所規定にも入らされます。
裁判官
裁判官は、国連総会と安保理の選挙を経て選ばれます。
その際、安保理の常任理事国拒否権は認められていません。
任期は9年。
裁判長は3年ですが。
日本の裁判官の様に、試験に受かった裁判官ではなく、
選ばれるのは大体は学者です。
当り前ですが、中立を保つ為、出身国からの指示は受けてはなりません。
係争国、又は利害関係がある国出身の裁判官は、「忌避の申立て」ができ、裁判に関わらない様にできます。
裁判長が当事国の国民だったら、その裁判では職権を行使できません。
一応裁判官は常駐ですが、
当事国出身の裁判官がいない場合、その事件に限って特任裁判官を選任できます。
裁判部は、15人全員の大法廷、5人の小法廷、
特定分野に通じた裁判官を選挙した「特別部類特別裁判部」、
特定事件の処理の為に当事国の要請で秘密選挙された「特定事件特別裁判部」があります。
裁判の開始
裁判は、基本は付託合意によって行われます。
事前に裁判について規定がされてる条約もあります。
合意がないとしても、応訴、詰り売られた喧嘩を買うと裁判管轄が認められます。
始めから「応訴します」と宣言してる国もあります。
自動で裁判が始まります。
「強制管轄受諾宣言」といいます。
パターンとしては
1.宣言国同士
2.宣言国-非宣言国
3.非宣言国同士
がありますが、
自動で始まるのは1だけです。
しかも、強制管轄受諾宣言には、「この条件では応訴しません」みたいな留保は多々ありますが。
この留保ですが、相手が逆に援用する場合があります。
「お宅の国はこういう留保がついていますね。
所で今回の事案は、正にお宅の国の留保の場面じゃないですか!
だからお宅の留保を逆に援用させてもらいます」
ができるのです。
考えた奴、頭いいですね!
強制管轄受諾宣言は、自動で応訴する宣言ですが、
それで始まった裁判で負けた場合、不服として宣言を廃棄•撤回する国があります。
仏国、米国がそれをやりました。
ある意味、自分達に不利な条件を宣言してますから、
嫌がる気持ちは分らんでもないですが…
逆にいうと、合意もなく、応訴もせず、強制管轄受諾宣言もしていない国相手には裁判は始められません。
国内裁判の様に、訴えたら自動的に裁判が始まる訳ではないのです。
日本は韓国、中国と領土問題を抱えていますが、
日本は強制管轄受諾宣言国なのに対し、
韓国も中国も非宣言国なのです。
2ヶ国とも応訴する気もないので、
残念ながら竹島も尖閣諸島も、裁判での解決ができません。
意外と使えない裁判所ですね。
裁判手続き
当り前ですが、まずは請求原因を特定しなければなりません。
次に訴訟の参加ですが、
意外にも国際司法裁判では、欠席裁判がしばしばあります。
欠席がでても裁判自体は続きます。
国際司法裁判では、当事国の他に、一応、裁判によって影響を受ける第3国も訴訟に参加できます。
然し、実際には裁判所は、第3国の訴訟参加には慎重です。
先決的抗弁
本案がでる前に、当事国の一方が裁判所の権限を否認する事があります。
「先決的抗弁」といって、更に「管轄権に対する抗弁」と「受理可能性に対する抗弁」とにわけられます。
管轄権に対する抗弁として、
裁判条件、裁判条項、強制管轄受諾宣言
に対する抗弁があります。
受理可能性に対する抗弁には、
2.訴える国として不適切だという「原告適格否定の抗弁」
3.裁判所ではなく、安保理等が解決すべきとする「政治的紛争•機能分立論の抗弁」
4.関係ない国の権利について争ってるとする「第3国の権益事項の抗弁」
があります。
仮保全措置
判決が下される前に、当事国の権利が回復不能な程に侵害される恐れがあると、その権利を保全する指示がでます。
一時停止みたいですね。
国際司法裁判所規定にはなく、
判例によって形成されてきました。
判決前に仮の結論を出すので、相応の蓋然性が必要です。
回復不能の基準ですが、
金銭賠償や物的補償では解決できない様な侵害です。
例えば死刑執行みたいに、1回やってしまったら取返しがつかないものです。
この仮保全措置ですが、
明文規定はないものの、法的拘束力を裁判所は認定しています。
判決
判決は過半数の多数決で決まります。
半々なら裁判長が決めます。
上訴、詰り控訴や上告はできないので、国際司法裁判所の判決が下されれば法的には確定です。
但し再審といって、判決後に決定的な事実が発見され、知らなかったのに過失がなく、判決から十年たってなければ、新事実発見から6ヶ月以内に再審を請求できます。
国際司法裁判所の判決には、当事国に限り法的拘束力があります。
判決を下されるのは当事国だけで、国以外の国際機関が判決を下されるのはありません。
先例拘束性はないので、似た事案で前の判決をひっくり返す事もできます。
判決を履行しない国には、安保理が履行の勧告を行い、必要な措置をとる裁量があります。
これは、裏を返せば、履行しない国が安保理の常任理事国だったら、履行の勧告や必要な措置について拒否権を発動されるので、究極、葬られてしまう可能性があります。
ですが、大方の判決は履行されています。
安保理の措置もありますが、多くは同意の上で裁判してるので、判決に対してもある程度は納得してるんです。
然し、一方的に付託された裁判は、納得してない事が多いので、履行されない場合があります。
国際司法裁判所の判決には、各判事が意見をつけられます。
判決理由に反対する意見を「分離意見」
主文に反対する意見を「反対意見」
といいます。
この意見ですが、余り多いと判決の一体性が損なわれるので宜しくないですが、
意見したがる裁判官が多いです。
というのも、意見すると名前がでるんですね。
それが国際法の教科書に載ったりするんです。
国際司法裁判所の裁判官は、殆ど学者で、ここぞとばかりに自分の学説を主張したがるんです。
はたから見てると売名行為の様なものが横行してるんです。
権威ある学者といえど、人間臭いですね。
勧告的意見
法的問題について、国際機関からの諮問に回答するのが「勧告的意見」です。
判決が国に対して下すのに対し、
勧告的意見はどっちかというと国際機関に対してです。
国連総会、安保理はいかなる問題も諮問でき、
それ以外の機関は活動の範囲内で生じる問題を諮問できます。
具体的に揉めてる時は勿論、
揉め事がなくても「こういうのについてどうお考えですか?」という質問もできます。
諮問されると、裁判所は決定的理由がなければ拒否できません。
勧告的意見ですが、法的な拘束力がないんです。
最悪、守らなくても違法にはならないのです。
但し、権威は絶大なので、余程の勇気がないと踏倒せないですが。
国際コントロール
多数国条約の国際機関が、条約義務を遵守させ、必要なら是正措置を勧告する制度です。
似た制度に「外交コントロール」というのがありますが、
外交コントロールは2国間条約でのお互いのやり取りに対し、
国際コントロールは多国間です。
裁判と違って、法的拘束力は持ちません。
行政指導の条約版といった所でしょうか。
国家責任とも違って、義務違反の損失の補填を目的にしません。
揉め事が起こってからの紛争解決手続と違って、
国同士の揉め事がなくても、義務違反があれば勧告や是正措置ができるので、
紛争解決手続とも違います。
本当に行政指導みたいな印象ですね。
条約加盟国の間でしか通用しませんが、
かなり柔軟な制度です。
終りに
如何でしたか?
今回は紛争の平和的解決について書きました。
国内の法体系と違うのは、
裁判したり交渉したりと、紛争解決の方法が多元的です。
故にバラバラでややこしいです。
書いてる方も、あれやこれや書いてる内に、纏まりのない文書になったなと反省してます。
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